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『その女、ジルバ』~背景にある現実とこの後…

『その女、ジルバ』が、ますます面白いし、興味深い。先週の地震で放送が遅れ(いつ、放送するか分からなかったので、寝てしまった)、見られなかったので、全話FODで配信中ということもあって、見ていなかった3話も含めて、全話を見返してみた。

名台詞が多い中、もっとも「そうそう、そうだった!」と思ったのは、第1話の、主人公・新(あらた)が、初めて「オールド ジャック アンド ローズ」の扉を開く前の「何かしないと、今、ここで新しい何かしないと、私は私の人生を嫌いになっちゃう」だった。そのときは、こんな言葉にはならなかったけれど、前職を退職して、自分の会社を、自分のスタジオを持つことを決めたとき、確かに、そんな想いがあったのだ。

「ボーイ募集 時給1,500円」ってあったら、働いてみたい。週に3日、1日5時間として、月に90,000円ってとこだけど、楽しそうだし、元気になりそうだし、勉強になりそう。

このドラマの凄いところは、数々の名台詞だけではなく、「浮世を離れた別世界」と言いながら、しっかり、現実があるところである。時折、織り混ぜられるジルバママを含めた、スタッフさんの人生と、その背景にある日本の歴史(ブラジル移民も含む)と現代(阪神・淡路大震災や東北大震災を含めて)との対比もあり、物語に奥行きがあってリアルなのだ。主人公が短大卒で、アパレル会社に就職して、デパートの売り場で販売員から、36歳で出向させられ、デパートの物流センターで働いているというのも、現実的設定である。

だから、もちろん「ドラマ」なんだけれど、ドラマを見ながら、現実的に考えることがある。「オールド ジャック アンド ローズ」の資金繰りである。、 

まず、客層を見ると、「アラキさんが部長にご昇進」とあるから、常連のアラキさんは、それまで次長か部長補佐クラス。あと分かっているのは、小さな靴メーカーの社長の滝口さん、学生のジューゾーくんもいるし(酒代は多少はくじらママにつけているのか)、雛菊さんの常連さんもかなりのご年配、ミカちゃんとスミレちゃんが何となく来るくらいだから、アラキさん他が接待などで使っていても、客単価は5,000円か、せいぜい7,000円くらいか。席数や埋まり具合を見ると、1日の客数は多めに見ても多くて20人くらい。1日の売上は100,000円というところで、月に25日営業して月商2,500,000円くらい。

さて、ママ、マスター、3人のホステスさんの日給を少なめに15,000円として人件費が75,000円。そこにアララの9,000円が乗っかってくる。土地建物は、階上にジルバが住んでいた部屋がそのまま残っていて、自前のようだから、家賃はかからなさそう。おそらく、ダンス全盛期、戦後の復興期に、ジルバ、くじらママ、マスターで共同購入したか、一応法人化して自社物件なののだろう。ただし、所在地が路地裏とはいえ、赤羽で、小さくてもダンスホールだった広さなので、建物はほぼ減価償却済みでも、固定資産税はそれなりにかかる。仕入れもあるから、現状、経営的にはおそらくかつかつというところか?

突き出しの自家製きんぴらごぼう、七子さんが焼くお祝いのケーキ、掃除も業者に頼んでおらず、クリスマスパーティーのブッフェメニューも手作りっぽく、その辺りも抑えるところは抑えている。

それは、ホステスの生活を見ていても何となく想像できる。エリーさんは長年、古い団地住まい、七子さんは昼に副業しているから、お給料はそんなに多くはないだろう。15,000円で20日(それなりの年齢だから、ギックリ腰だったり、体調悪かったり、で、休む分を5日引いている)として300,000円、そこから、諸々払うことになる。ホステスは個人事業主になるから、国民年金と国民健康保険(七子さんは旦那ちゃんの分もある)、あとは所得税か。くじらママとマスターと雛菊さんは、少額だけど繰り下げて老齢国民年金をもらっているだろうし(法人化していたとしたら、くじらママとマスターは老齢厚生年金もあるかも?)、エリーさんも貰える年齢ではあるが(行き遅れの25歳で結婚詐欺にあって、40年以上だから)、今後を考えて繰り下げしている可能性がある。七子さんは、エリーさんが最年少ってことになっているから、逆サバの可能性も含め、昼の仕事もしているから、年金はまだだろう。夢の世界の「オールド ジャック アンド ローズ」にも、新が働く物流センターと同じく、ちゃんと現実はある。

気になるのは今後だ。第1話の冒頭、新が福島会津に帰ったところ、新はマスクをしているし、弟は「大変だったな、いろいろ」と声をかける。物語のスタートは、「1年とちょっと前の」主人公・新の「シジュー」の誕生日の2019年10月8日で、現時点ではその年の大晦日まで進んでいる。冒頭の、主人公が会津に帰ったのは、2020年の暮れか、今年2021年の初頭ということになる。先にも触れたが、このドラマの凄いところは、歴史を印象的に組み込むところである。主人公の新は、東北大震災の被害を受けた福島出身、スミレちゃんは淡路島出身だから、どうやら阪神・淡路大震災で家族を失ったと想像できる。ジルバとくじらママとマスターが出会ったときの年齢が、30歳、19歳、14歳(と、くじらママは言っていたが、七子さんは、「ジルバとマスターは13歳違い」と言っている。マスターが、ジルバを「初恋」かと思い起こしているから、マスターが七子さんに逆サバを読んでいる可能性あり)で、ジルバが亡くなったのが9年前、生きていたら99歳だから、ジルバの生まれ年は1920年という設定だ。そうすると、これから「オールド ジャック アンド ローズ」にも、コロナ禍が襲いかかってくるだろう。営業自粛要請、売上減少…。物件が自前だと思われるから、家賃補助給付金は対象外で、短縮要請に対する協力金や持続化給付金をもらったとしても、月商2,500,000円だから、1月しか持たず、焼け石に水だ。

「オールド ジャック アンド ローズ」だけではない。自粛要請こそなかったものの、年明けて2020年1月に、主人公の弟の光が福島にオープンする古民家をリノベーションしたカフェも大打撃を受けるだろう。ミカちゃんは島根に帰ったけれど、スミレちゃんのデパートだって、大変なことになる。百貨店も営業自粛、短縮で売上が落ちるし、新の出向元の百貨店にテナントで入るようなアパレルは目も当てられない。

その中で、物語がどう進むのか。新が入って、昔を思い出しながら、かえって元気になってきたマスターを始め、くじらママとホステスのお姉さま方、「オールド ジャック アンド ローズ」がオープンしたのが1950年頃で70年、そして、ちょうどジルバ生誕100年、没後10年に当たる2020年、彼らの「決断」も気になる。くじらママには神戸に息子が、マスターは孫のマイカちゃんがいるし、七子さんは旦那ちゃんがいるけれど、エリーさんは天涯孤独になっているし(浅山さんと上手くいくといいけど)、雛菊さんも独り身っぽい。ついでに、スミレちゃんと石動さんも、上手くいってくれるといいのだけれど。

次回(2月20日放送)では、まず、今まで語られていなかった「新しい人生」を始める前のジルバの半生が語られるようだ。分かっているのは、1938年に結婚、1941年に夫と子供を亡くし神戸に到着したことだけ。「似ている」と言われる新とジルバは、同じ福島出身だから、もしかしたら、血縁関係があるのかも(姓が違うから、新の曾祖母とジルバが従姉妹とか)?

会津の実家もあるし、謎の男との話もあるから、今回は盛りだくさん。

残り4回、これが終わったら、楽しみがなくなる…。

 

#その女、ジルバ

#オトナの土ドラ