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またまた『ハケンの品格』~脚本の必然性

前回が長くなりすぎたので、今回はコンパクトに。


大泉洋が戻ってきて、多少は笑える要素が増えたけれど、相変わらず終盤まで重かった4話。

さて、今回のポイントもやはりラストである(大泉洋と小泉孝太郎のエピローグは置いて)。

行方不明だった新人・井戸が何とか戻ってきて、社員一同に囲まれて喜ばれている姿を見ても、最大の取引先の女社長で、母親のキムラ緑子の表情はパッとしていない(井戸は、キムラの三男で、コネ入社)。

井戸が頭を下げている姿を見て、少し表情が変わった後、篠原涼子の許に生き、「スーパー派遣社員になります!」と宣言するのを見て、また少し表情が変わる。

いつもの調子で「無理!」と言いながら、「少しは見所のあるヘタレ」と言い残して立ち去る篠原涼子。それを見てもキムラ緑子は怒りもせずに、ただ見守る。

ここでのポイントは、① 母親であること、② 女社長であること、である。


父親だったら、うわべで見て、社員に囲まれて喜ばれている姿だけで「うちの伜は、ちゃんと会社組織でうまくできている」と、満足してしまうだろう。

しかし、これが母親だと、視点が違う。おそらく、起業して社長としてバリバリと仕事をしてきた彼女は、子育てについて、自分が行き届かなかった部分があるという自覚があるにちがいない。まして三男で、親子の時間が限られていた分、甘やかした結果、どこか主体性のない、甘い考えの人間になってしまったことを、うすうすは分かっていよう。その息子が、しっかりと頭を下げて、自分の希望をはっきりと口にしたことで、その成長を感じ、それが、母親としての安心になったのだろうと思える。

そして、男社長であれば、そういう場の中でも、周りに同調せずに、自分の仕事を進める篠原涼子を攻撃するだろう。しかし、男社会の中で戦い続けて今の地位を築いたキムラ緑子にとって、大前春子の姿は、かつての自分を彷彿させるものがあったのではないか。男社会で、それに互して女性が働いていくには、そのくらいの姿勢でなければダメなんだという自らの経験が、大前春子を見る目に表れていたと思う。そして、凡庸の集まりである社員ではなく、「仕事ができる」大前春子を選んだことを密かに喜んでいるのではなかろうか。

ついでを言えば、大前春子が息子の尊敬の対象であっても、恋愛対象になりそうもないことも、母親目点ではプラスに働いただろう。


だからこその、ここは「女社長」。よく考えられていると思う。


あとは、閉じ込められたときに、救助信号の船舶、モールスを披露しながら、結局は、三三七拍子というのも、実は深い。「それかよ!」と軽く笑い流す人も多いかと思うが、群れて三三七拍子など嫌いな大前春子が、井出の前で敢えて三三七拍子をやるというのに、実は意味があるのではないかと思う。

さ、いよいよ、次回からは大泉洋の本格参戦。顔芸もありの、篠原涼子との掛け合いがあってこその、バランスいい『ハケンの品格』、楽しみである。

ついでに


「ミスキャスト!? ドランク塚地」


このドラマ、重くなりがちでバランスが結構、重要なので、そこのバランスを取るキャラクターが必要で、筆頭が大泉洋なのだが、本来、部長の塚地のポジションがキーになるはずのところである。

もちろん、塚地が悪いのではなく、一生懸命やっているのは伝わる。ただ、悪い面ばかりが強調されて、説得力がなく救いがない。

本来、重要な役どころはキャスティングに合わせて、キャラクター設定をしているはずのドラマなのだが…。上に媚び、下に当たり、無責任なようでいて、苦労と人柄の良さが滲み、憎むべきなんだけど何となく憎めない、そんな役者さん。

つまり、本命が誰かいたのではないかと考えてみたら、いました! この人がやったら、絶対に良かった。


出川哲朗


外見は塚地と似ていても、雰囲気がまるで変わってくる。この人が、下積みの苦労を語れば説得力もあるし、ダメ上司だけど憎めないから部下も何となく寄り添ってくるって雰囲気がある。

日テレ出し、何とかしたかったのだろうが、出川のスケジュール的に無理だったのかなぁ…?