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キマグレン『LIFE』~ポリネシアンサウンドと絶妙なコード


夏の終わり、日が傾いた頃に似合う曲である。ハワイアンというよりもポリネシアンだろうか? とにかく、ベースサウンドが南の島を思わせる作り。ただ、これが単純に陽気な旋律でなくて、陽気なんだけどどこか哀愁漂う、ちょいブラジリアン的なのが、日本人好みに仕上がった所以だろう。そこが、私には盛夏ではなく、晩夏を連想させるのかもしれない。

 

さて、なぜ単純に陽気になっていないかというと、これはコードを見ると分かりやすい。この曲はイントロから大部分で基本パターンのコードが繰り返されているが、Am/F/C/GonB/Am/F/G/Gとなっている。基本はメジャーコードだが、頭にマイナーコードがあることによって、そこに哀愁というか切なさというものが前面に押し出されているのである。

サビ部分では、このマイナーコードと歌詞が見事に対応しているのも興味深い。「泣きたくて」の「て」でAmになり、「笑いたくて」の「て」でFになり、「我慢して伝わらなくて」の「て」でAm。Bメロでも、Dm7の部分の歌詞は「自分殺して」と「分かんなくなった」と対応する。計算されたものであるのかは知らないが、これによって歌詞のイメージがメロディで後押しされるので、より印象が強くなるのである。非常にシンプルなコード進行にもかかわらず、この曲が彼らの最大のヒットとなったのは、歌詞のメッセージ性がこのコードによって全面に打ち出され、多くの人々の共感を得たからであろう。

 

そして、この歌詞がまた、すごい。のっけの「僕の見えてる世界は白と黒 他の色全然必要ないんだよ 難しくするほどもう 分かりづらくなるから」からして、ある意味難解だし、受け手によって解釈が分かれるであろう。 Bメロの「僕らの住む世界はいつもとてもウソだらけ」以下、生きづらいこの世界を嘆く歌詞(ただし、ここに具体的な内容がないことにより、より普遍性、共鳴性を持たせている。これは、社会であり、会社であり、学校であり、世間であり、家族であり、仲間であり、とにかくそこに団体における対人関係があることだけしか前提条件がない。)が続くが、2コーラス目の頭、AメロでなくCメロというちょっと変わった構成をとりながら、ここに希望の言葉を並べたのもバランス的にいい。

 

この歌詞における「僕」と「君」の対比も、なかなか深い。「僕」は「僕は誰?」と、もう自分が誰だか分からなくなるほどに、「ウソだらけの世界」で自分を殺してしまっている。「ホントの自分」を我慢して「言いたいこと言えないけど ここにいるよ」と、ただ無言で存在しているだけになっているのだ。それに対して、「愛、自由、希望」を懐かせて「君」は生まれてきた。「君」は「生きる意味を探す旅」を続けるのだ。

これは、サイレントマジョリティとなってしまった大人から、まだ「自分」を持っている「君」たちへのメッセージとも取れる。1コーラス目のラスト「君は誰のために生きてくの」が、大ラス「君は君のために生きてくの」になっているのが、この結びにふさわしい。1コーラス目が「生きてくの?」で「?」をつけ「君」への問いかけが、ラストで「生きてくの!」で「!」と、「僕」が失ってしまったものを持ち続けて生きて欲しいというメッセージになりそうな対比である。

 

基本、陽気なコードに少しのマイナーをしっかりと効かせ、歌詞は逆に、生きづらい世の中で見失う自分を嘆きながらも、「命」の希望を忘れていない、「生きる」者への応援ともいう、この絶妙なバランスが、この曲の持ち味であり、この世界に生きる多くの人々の共感を得たと言えるのではないか。伸びやかなコーラスに対して、息遣いが聞こえる、訴えかけるボーカルの表情も、この曲の「表現」に大きな役割を果たしている。さらっと歌える曲ではないぞ、この曲は。